ウンブリアで家探しをしている間、数えきれないほど多くの物件を見てまわりました。イタリアの田舎にはよく、昔ながらの石造りの家が捨てられています。
崩れかかったものもあるのですが、その重厚で自然な石の色は周囲ののどかな自然とよく調和されてとてもきれいです。きっと300年前もこんな風景だったのだろうと思い起こさせます。 この辺りは昔からカリタ一族が広大な土地とたくさんの家を所有しています。王族に使える貴族だったのが、そのうちに王家よ りも財力を持つようになったそうです。村の象徴でもあるそのお屋敷は、王家とカードの賭け事をして勝ったために譲り受けたそう。
カリタ一族の所有する土地と崩れかけた家を一軒売ってほしいと頼んだ友人は、即断られたそうです。これほど多くの家を放置しているくせに、どうして一軒くらい売らないのだろうかと不思議に思っていたら、その理由を友人が教えてくれました。ずばり、理由は「昔の景観を残したいから」だそう。そしてカリタ一族はそれらの家を完全に放置しているかと言えばそうでもなく、家の周辺はいつも麦畑が並び、雑草もきれいに手入れされています。
所有するすべての家の周りがこうなのだから、維持しているのはすごいことです。

イタリアには家を建てる際に厳しい法律があり、最近ではもともと家があった土地以外は新たに家を建てることはできません。もし何もない土地に家を建てる場合には、最低でもン十万ヘクタールの土地が必要という、ややこしい法律をクリアしなければなりません。だからイタリア人は古い崩れかかった家を見事に修復して住めるようにします。日本のように新築ほど価値が高くなるのとは正反対で、古ければ古いほど価値もあがります。
田舎の景観を壊している家には大きく分けて2つのタイプがあります。 石造りの家はお金がかかるし手入れも大変だからと、昔風の家を壊し、白く薄い壁のペカッとした家に建てかえてしまう農家の人々。もう一つは外国人やローマに住む人々が一応昔風の石造りの家に修復し、プールやトスカーナ州特有の糸杉を植えたりしている別荘系の家。ウンブリアと言えばなんと言っても樫の木とオリーブの木が特徴なのですが、一時期どんどんそういったウンブリアのもともとの景観とは何の関係もない家が建ちました。“これ以上景観を壊すような家を建てないように”と活動する「イタリア ノストラ(私たちのイタリアという意味)」というグループもイタリア各地にあり、私と夫もちょっとだけその会に参加してみました。
面白いのは、この近辺のグループの会員は皆都会の人々なのです。それが文化だと認識できていなかったら、守っていこうという意識も芽生えないのだろうかとちょっと考えさせられる会でした。