2004年10月26日

愛媛県松山市 愛媛大学 野崎賢也 2日目

農家民宿「はこば」から無手無冠酒造へ

 25日月曜朝。高知県大正町中津川の農家民宿「はこば」で1泊し、朝食を食べてのんびりしてから出発しました。この日は夕方までに松山に戻ればよいので(私は夜間の授業あり)、四万十川中上流域の要所を見物していくことにしました。
 まず大正町の街にある無手無冠(むてむか)酒造に向かいました。途中の山道は、台風による被害で崖崩れ、25分止め5分通行になっているので、その時間にタイミングを合わせて通過します。

 無手無冠酒造は、10年以上も前から、地元の米にこだわり、無農薬の米で酒造りをしています。日本酒以外にも、「ダバダ火振り」という栗焼酎をつくっていて、この焼酎はかなり知られています。また最近は、紫芋で自然の美しい色を出した「ダバダロゼ」という焼酎も話題になっています。某有名ソムリエがテレビで紹介してから、多数の問い合わせで、なかなか外には出せない状況になっています。

 ひさしぶりに山本社長の顔を見ようと突然訪問したのですが、元気で安心しました。余裕があれば学生たちに蔵を見せてやってほしい、と頼むと、「予約して来い」と叱られながらも、笑顔で学生たちを案内してくれました。
 ちょうど新酒の仕込み用に、酒米が蒸し上がるところでした。山本社長は、地元にこだわった酒造りを熱く語っています。卒論で宮崎の焼酎について書いている4回生(宮崎県出身)は、さすがに真剣に聞いています。



醸造用のタンクを覗くと、泡がぷくぷく、酵母が活動している様子がよく分かります。昔ながらの酒槽もある。古い木造の蔵の中には、甘い香りと、ひんやりした独特の空気が漂っています。栗焼酎の仕込みは既に終わっていましたが、焼酎用の仕込みタンクや蒸留機を見せてもらったあと、蔵人用の部屋で焼酎の味見をしながら山本社長に話を聞きました。
 無手無冠酒造では、地元の無農薬米にこだわった酒造りをしていますが、山本社長が個人的に研究して、紙マルチ栽培を農家に提案して実現しています。また、全国的に焼酎粕の海洋投棄が(密かに大きな)問題になっていましたが、この蔵では早くから焼酎粕を発酵させて肥料として農家に提供する仕組みを作っています。

 山本社長の熱い語りと、強烈な個性に、学生たちは強いインパクトを受けたようです。私は10年以上前のまだ学生だった頃から、山本社長と付き合いがあってお世話になっています。たまに通りがかりに山本社長の顔を見に寄って行きますが、これから蔵見学をお願いするときは必ず予約して行こうと反省しました。この日のように、どんなに忙しくても見学を引き受けてくれるので。

 お土産用の栗焼酎やダバダロゼを買い込み、無手無冠酒造を後にしました。四万十上流の山間の細い道を走らせて檮原町方面に向かいます。大正町の中心地から隣の檮原町の中心地までは、以前は車で2時間かかったのですが、今年トンネルが開通して、1時間に短縮されました。隣町まで車で2時間、という世界がつい最近まで四国にありました。


Youファームの山地酪農ソフトクリーム

 四万十源流の東津野村は、檮原町の隣です。この村の国道沿いに、小さなログハウスが建っています。ソフトクリームの店で、4年前にIターンでやってきた片倉さんが営業しています。ここのソフトクリームは、片倉さんの山地酪農の牛乳を原料に作られています。

 山地酪農というのは、文字通り、急傾斜の山に放牧する酪農です。というと、それがそんなに珍しいものなの? 普通じゃない? という人も多いでしょう。確かに、ヨーロッパの山岳地帯(アルプス周辺)など、急傾斜の山に牛が放牧されている映像は、写真やテレビでよく目にすると思います。しかし、日本では、山に牛を放牧している牧場というのは、(悲しいことに)ほんとに珍しいのです。日本では、ほとんどの牛が牛舎の中で飼われています。野外の運動場程度を持っているところはたまにありますが、1日中牛が過ごせる(牧草を食べられる)ような放牧地を持っている牧場は、北海道をのぞくと、本州以南にはごく僅かしかありません。

 片倉さんの牧場は、四万十源流の不入山(いらずやま)を正面に望む、標高600m前後の山の斜面にあります。放牧されているのは、茶色のジャージー種です。ジャージーは小柄で足腰が強く、放牧に適しています。片倉さんが搾乳用に飼っているのは3頭だけ。それを全量ソフトクリームなどに加工して販売しています。現在の日本では、本州以南の平均的な牧場は、少なくとも50頭以上、100頭以上の牧場も普通にあるなかで、3頭だけの牧場は異色中の異色です。生乳として出荷するのではなく全量をソフトクリーム等に加工して販売するからこそ成り立つ経営方式です。




乳製品加工販売の意義

 日本では酪農家の自家加工乳製品販売の規制が厳しく、また伝統的に乳製品の食文化も無かったため、ほとんどの酪農家は生乳として乳業会社に出荷するだけです。牛乳は、みなさんの近所のスーパーで1Lが200円以下で売られていますね。農家の手取りは、生乳1Lあたり100円以下です。生乳を加工してソフトクリームやチーズなどの乳製品にすると、少なくとも10倍以上の価値を生み出します(ヨーロッパの伝統的な山岳酪農は、チーズなどの乳製品加工に支えられている部分が大きいです)。だから、片倉さんも3頭の牛だけですが全量を加工販売するだけで、家族を養っていける経営ができているわけです。

 片倉さんは家族とともに4年前にIターンで東津野村にやってきました。引っ越し当初は、荒れた山林と藪だった山を、少しずつ手入れして、ノシバを植えたり牧草地として整えていきました。私はそのころ高知に住んでいて、福井県の牧場にいる頃から知り合いだった片倉さんが四万十に引っ越してくるということで、放牧地の整備でノシバを植えたりするのを手伝ったことがあります。営業準備のため保健所などとのやりとりの苦労も見てきました。いまは、ソフトクリームの味が評判になり、山の中の国道沿いに1軒だけぽつんとあるこの店にも、そこそこのお客さんがやってきます。この日も平日だというのに、ツーリングのライダーや家族連れなど何組もやってきていました。

 さて、この山地酪農の牛乳でつくったソフトクリームのお味は・・・。ジャージーの独特の濃厚な牛乳の味がしますが、しつこくなくあっさりとしたキレ。牛乳自体の甘みと糖分の甘みだけの、ほんとにシンプルですが、味わいの深いソフトクリームです。既製のソフトミックスで作ったソフトクリームの味しか知らない人が食べたら驚くでしょう・・・牛乳の味がするから。牛乳のおいしさが分かる味と言ってもいいですね。
 うちの学生たちも、このソフトクリームは今まで自分たちが食べていたものとは別のモノだということを感じたようです。その場では、これ以上のことは聞いていませんが、いま感想をレポートにまとめてもらっていますので、できあがりを期待してます。





posted by LJ21 at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 愛媛県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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