佐藤さんの本業は腕のいい(そして頑固な)大工。しかし、10代のころから趣味で日本ミツバチを飼いはじめ、いまでは西は天草半島から東は大分空港のあたりまで、ほぼ九州を横断して580箱の巣箱を置いているとか。しかも普通、巣箱を置いてもそこにハチが営巣するのは2〜3割なのに、林さんの場合は6〜7割。「みつばちプロジェクト」でも書かれていたように、どこに巣箱を置くかはカンが頼りだし、どこに置いたかは記憶が頼り。正確には覚えていなくても、その場所の近くに行けばだいたい思い出すそう。「1m違うだけでハチが入らないこともあるし、蜜源の花のすぐそばでも入らない」とか。
また「里より山の方がハチは蜜を集める。自然木の多い山は木の花が何かは一年中咲いている」とも。いま高千穂ではハチを飼う人が増えて全体では100人ほどいるが、とくに親しい4人が集まると「ハチの話で朝まで眠らない」とか。また天草に行くのも大分に行くの日帰りで、朝3時に高千穂を出て、帰ってくるのは夜の9時。一年間の車の走行距離が1万qちょっと。

高千穂はまた日本ミツバチの蜜を集めるだけでなく、長野県と同じようにスズメバチや地蜂の幼虫を食べる食文化のあるところ(画像は大スズメバチの成虫のはちみつ漬けと佐藤林さん)。
地蜂の巣を探すのは「ハチつなぎ」といい、花にとまっているハチの足に目印の糸やこよりを垂らしたカエルの足の肉などをからませ、巣に帰るハチを肉眼や双眼鏡で追いかけるという原始的な方法。巣が見つかれば「つながった」、見つからなければ「つながらんかった」。
子どものころの私自身もこのハチつなぎの経験があり、おとなといっしょに野山をかけまわるのが好きでした。巣が見つかれば、夜のあいだにダイナマイトの導火線や花火の煙をかけて成虫が一時的に失神状態になっているあいだに巣を掘り出すのです。
高千穂では、日本ミツバチが巣箱に入ってくれるかどうか、また、「ハチつなぎ」で巣が見つかるかどうかは腕半分、運半分の「結果論」。でもその「お金をかけないギャンブル性」が、よい年をしたおとなたちを夢中にさせているようです。

(写真は昨年の夏、実家の庭にスズメバチがつくっていたハンドボール大の巣。「孫たちが帰省してくるのに危ないから」と、老父が夜中、懐中電灯で照らしながら殺虫剤をスプレーして落としたもの。しかし逆襲に遭い、オヤジは顔面を刺されてウンウンうなるハメに)

「腕半分、運半分の結果論」といえば、夏休み前に、千葉県の某地でトライした「イセエビの生け簀漁」もそんな漁。昨年「捕れるときは1000匹くらい捕れる」というなじみの民宿のおばさんの甘言に誘われ、初めて参加したのだけれど、成果は数匹!
その漁法は、海とパイプでつながった岩場の穴(人工的に掘ったもの)に入り込んだイセエビを手づかみで捕まえるといういたって簡単なもの。しかし、そのためには穴にたまった海水をバケツでくみ出し、底にたまった砂やヘドロ状の土をかき出し、イセエビを捕ったら、イセエビの巣になっていたコンクリのブロックを運び出しては掃除し、また元に戻すという作業が必要です。しかも炎天下の、足場の悪い磯での作業。ホント、熱中症で死ぬかと思うほどです。
昨年は屈強な鴨川自然王国のスタッフと参加したのですが、あまりにも不漁だったので「民宿のおばさんがまた今年もやると言ってるけど、どうする?」と王国スタッフに電話をしたら「やるに決まってるじゃないか! なんのために去年、あんな苦労をして掃除したんだ!」と言われてしまいました。

今年の漁もしんどかったけれど、かんじんのイセエビが70匹ほど捕れたので、鴨川から行ったメンバーも大満足。8人がかり、3時間ほどの漁だったので、労力から言えば買った方が安いのかもしれませんが、なんとも言えない満足感、充足感があります。
日本ミツバチ、地蜂捕り、伊勢エビ漁――自然を相手の人間の「労働」には、「合理性」だけでは解釈できない身体のヨロコビがあるなあとつくづく感じる夏。(成果は)あてにならない、(経済的には)頼りにならない、(仕事としては)けっこうキツイ――しかし、なぜだかハマってしまう! そんな仕事が、山村や漁村にはまだまだたくさんありそうです。
