17日は終日、農林公庫の機関誌に載せる原稿の仕上げに追われた。今年の5月の連休に有機農業推進議連の視察団に同行して見に行ったキューバの有機農業がテーマである。有機農業といえば、飽食の先進国で普及している農法で、食料確保に追われている途上国で普及しているはずがないというのが、私の先入観だった。ところが、世界の農業関係者の中で、キューバは有機農業の先進地として知られている。その秘密を伝えたくて、リポートを書くことにした。
秘密というほどのことはない。窮余の一策で始めたのが、振り返ってみれば世界のトップランナーに躍り出ていたというのが本当のところだ。1990年ごろまでのキューバ農業は、農薬と化学肥料を大量に使い、農場にはソ連製の大型農業機械が走る「近代的」な大規模機械化農業だった。サトウキビやタバコ、コーヒーなどのモノカルチャー(単作)農業で、砂糖などの輸出代金で工業製品や日常の生活物資を輸入する国際分業が経済の基本構造だった。
それが、1990年代初頭のソ連・東欧圏の崩壊で、キューバ経済は壊滅的打撃を受けた。共産圏諸国からの経済支援がとまっただけではない。農産物の輸出先を失い、見返りに輸入していた物資が入ってこなくなったのである。特に深刻だったのが、国民の食料確保である。
農薬や化学肥料、それにトラクター用の燃料がなく農業生産は半減した。そして、やむなく始めたのが有機農業である。当初は原始的な生産への回帰だったが、いまやその技術的水準は高い。しっかりしたバイオ技術に裏づけされているからである。
日本の有機農業技術だって捨てたものではない。キューバと遜色ないのではないか。でもキューバにあって、日本にないものがある。それは有機農業を推進し普及するのだという政府の支援策であり、行政担当者や研究者の熱い思いである。