2007年06月15日

新潟県十日町市松之山 田辺慎一 4日目

美人林.jpg
 松之山には、年間数万人もの人々が訪れるブナの森がある。その森の名は、美人林。ブナの立ち姿があまりにも美しいことから、誰ともなくそう呼ぶようになったとか。原生林ではなく、80年ほど前に伐採された後、自然のおもむくままに育ってきたブナ林だ。ブナは、たくさん種をつける豊作年が数年おきにやってくる。豊作年以外は、ほとんど種がならない。そもそも花が咲かない。美人林は、伐採される前年か数年前に豊作年があったと聞く。美人林の美しい所以は、整然と並んでいるほっそりとまっすぐに伸びたブナにある。伐採後たくさんの芽生えが一斉に光を求めて背比べをしていたら、現在の姿になったようだ。あまり知られていないが、美人林の奥のほうに、美人林よりも古いブナ林がある。私は、美熟女林とひそかに呼んでいる。

 ブナは、働き者だ。春になると、樹木の中で一番早く葉をつけ、秋には、一番遅くまで葉を残している。ブナ林は、緑のダムと呼ばれるほど、保水力が高いといわれる。保水力の定義もあり、科学的に信頼できるような広範に調べたデータはないようだ。昨年、ふと思いついてブナ林の地面に、落ちていた枝を刺してみた。ぶったまげた。ずぶずぶずぶずぶと刺さる刺さる。80cmくらい入ったはず。スコップでざくざく掘ると、地面から20cmくらいは、分解途中の落ち葉がミルフィーユのように重なっている。まさにスポンジ。見るからに吸水力は高そうだ。ブナ林を歩くとふかふかしてとても心地よいが、その真相みたり、の瞬間であった。面白いのでついついやってしまい、気がつくとブナ林を通る散策路のあちこちに枝がそそりたって...実は、今日もやってしまいましたが、今度からは抜いておかなくては。

 ブナはどんぐりをつけるブナ科の樹木で、ミズナラやクリも同じ仲間だ。ブナ科の樹木は22種あるが、その中でもブナの実はおいしい部類に入る。実際、生で食べてもなかなかおいしい。反対に、ミズナラのどんぐりは、あくが強くてとても生では食べられない。ブナの実が生でもおいしい秘密は、どんぐりが含むタンニンの量にある。タンニンは、渋味や苦味の成分であり、身近なものでは、お茶、ワイン、柿やアクが出る山菜などに含まれている。ブナの実は、まったくタンニンを含んでいないのです。

 ちなみに、ブナの芽生えも生で食べられる。松之山の人々は、このブナの芽生えを「ブナもやし」と呼んで、昔から食用として利用してきた。ゆでてわさび醤油で、あるいはゴマ油でさっといためて食べるなど、調理の仕方はいろいろ。子葉の部分に栄養がつまっているので、双葉が開く前までが食べ頃です。

 人が食べてもおいしいブナのどんぐりや芽生えは、他の生き物たちにとってもごちそうだ。どんぐりは、クマ、鳥、ネズミや様々な虫たちなどに食べられ、そして芽生えは、ウサギやネズミたちがこぞって食べている様子。ブナの身になってみれば、子どものブナが育たないのは大問題だが、そこはブナもやられっぱなしではない。前述したように、ブナは数年に一度しかどんぐりをつけない。この豊凶現象は、実は他の生き物に子どもが食べられないためにブナがわざとやっている、と考えられている。

 実際、豊作の年には、さまざまな動物たちの攻撃をすり抜けて、生き残るどんぐりの割合が増加する。一昨年、松之山ではブナの実が大豊作となった。昨春、ブナ林の地面は、芽生えの絨毯で覆われていて、足の踏み場がないとはこのことか、と思うほど。十年に一回といわれるこのチャンス。うおーし、いっちょやってやるか。昨年からキョロロの森でブナの芽生えの調査を始めた。合計3000本ほどのブナの芽生えの一本一本に、番号のついた針金をたてて、月に一回、生きてるいるか、枯れてしまったか、何に食べられたか、などを調べている。今は本数がかなり減って楽になったけども、最初は想像以上に大変だった。つらかった。一日中、カの攻撃を受けながら地面に這いつくばって、夢中で芽生えとにらめっこしていると気配が消えるらしく、すぐ後ろまでウサギがやってきても気づかない、なんてこともたびたびあった。

 他の調査例と比べると、昨年、ブナの芽生えが生き残る割合はかなり高い結果となった。まだ数年は調べる必要があるけども、豊作とかなり関係がありそうだ。人間を含め、動物は動いて逃げることができるけど、動けない木々たちは自ら「豊作年」をつくることによって、食べられないように逃げているのかもしれません。樹木と他の生き物たちとの関係は、考えれば考えるほど面白くなってくるのでした。調査やめなくてよかったぁ。


posted by LJ21 at 00:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 新潟県 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おもしろーい!
ブナもやしははじめて聞きました。おいしそうです。贅沢な食べ物です。ブナの実も。
これは食べたことがあります。クセがなくておいしいけれど、ちっちゃいので皮を剥くのが大変でした。栄養分が詰まっているなあという感じですね。

芽生えの後追い調査も面白いですねー。
3000本のうち、いったい何本が大きく成長できるのでしょう。2,3本?
Posted by あさだ at 2007年06月15日 16:11
ブナもやし。採ってみるとほんとにもやしにそっくりです。
数年に一度やってくる豊作の翌年しか食べられない、まさに珍味ですね。

他のドングリに比べて、ブナの実は、脂質やたんぱく質が豊富に含まれているので、栄養分が詰まっているというご感想は、大当たりです。

一年たった今、3000本の約2割しか生き残っていません。並作や普通の豊作年では、1年目にしてほんの数%しか残っていないということもあります。

ブナは、花を咲かせるまで、30〜40年かかるといわれています。子どもが作れる大人になるまでに、数本生き残ればラッキーという感じですね。数百年と寿命も長いので、子孫を残せるチャンスは、実はけっこうあるのかもしれません。

むちゃくちゃ面白いのですが、はっきりさせるには数十年かかるので、まだ誰も知らないとびっきりの秘密、です。
Posted by たなべ at 2007年06月15日 21:49
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