
花器に草花を生ける、いわゆる“普通”の生け花作家だった青森市浪岡出身の谷口さんは、植物の根源的な存在感を表現することを目指して1983年以降、花にこだわらず米や穀類など幅広い植物を素材に選び、広い空間全体を一つの作品に仕上げるインスタレーションに取り組むようになりました。
谷口さんの場合、素材も場所も、何でもあり。
ある時は、東京ガスの新宿オゾンビルの開放的な空間が舞台に。木枠に金網、粘土で作った高さ1メートル近い土台に、フェニックスの葉やアンスリュームの赤い花をあしらった楽園風の“巣”を制作。隙間無く振りかけた抹茶やシナモンの香りと柔らかな見かけが、見る人の五感をくすぐる仕掛けも。
両手いっぱいの白米を持って真っ黒なフロアーに立ち、指の隙間からさらさらと米を落とすと、米は弾みながら散らばって自由な模様を描き出し、そして山と積み上がる。そんな作業を何度も何度も繰り返して、床全体を “波紋の海”のようにしてみたり。

細胞の集合体をイメージして、針金や布などで作った土台に赤唐辛子をいくつも突き差し、その上に大量の唐辛子の粉を掛けているから、展示スペースに入ったとたんに、かすかに辛みのある香りが全身を包む。中央には水が張られた円形の入れ物。「植物の命の源は水だから」と谷口さん。
「呼吸する赤」というタイトルに納得する。だって、谷口さんの手に触れた植物たちは、豊かな土壌に根を張って蓄えた生命力を惜しげもなく発揮し、見る側の体の芯に、静かで熱いエネルギーを注入してくれるから。
こんな希有な作家が、青森の土に今も根ざしていることが、とっても嬉しい。
ラベル:青森