今度、友達が宮古へ行くから会ってやってくれないか?
という頼みごとは、宮古で暮らし始めてからよくあることです。
みなさんにもあると思います。
今は夏休みだし、遠い親戚の、一度も会ったことのない子供が、こちらを頼りにひとりで訪ねてくるかもしれません。
実際に自分の友達や親戚であることもあるし、友達の友達、友達の親戚(つまり他人)であることもあるでしょう。
こうなってくると人類みな兄弟で、とにかく誰であろうと縁のある人が、自分のホームグラウンドに遥々やってくるという、そのシチュエーションで盛り上がり、知らない人まで集まって大歓迎したります。
それが人里離れた辺鄙な場所であったりすればなおのこと。
宮古島もそうで、とにかく新しく島にやって来た見知らぬ人を、まるで兄弟のように親しみを込めて歓迎するという、人懐っこい気質があります。
愛すべき気質!
この大歓迎の裏には、見知らぬ人に対する興味と好奇心があるのです。
人の数の限られた小さな村社会で暮らしていれば、やはり好奇心旺盛にもなるものです。
突然質問攻め。
宮古では、核心を突いたことを遠慮なしにずばずば訊く。
そしてお世辞も謙遜もなく、まっすぐにすぱっと答える。
これが当たり前。
私がいちばんよく受けた質問は、
「何しに来たか?」
です。あなたはどうして宮古島へ来たのか。
訊かれてるのはその経緯ではなく、ここで何を求めているか、なのです。
「なんとなく」とか、「雰囲気が気に入って」とか、
そういううすぼんやりとした空気のような答えは宮古の人には伝わらない。
例えば、何でもいいからひとつ、「これをやりたくて、来た。」
と言えるものがあれば島の人は納得するのです。
私の場合は、音楽、という、なんとなく聞こえのいい大義名分があったけれど、
そんな大袈裟でなくてもいい。
たいして興味がないのに、伝統芸能を学ぶだとか、そんな立派な答えを用意しなくてもいい。
これはただのきっかけなのだ。島に受け入れてもらうための。
要するに、伝わればいいのだ。
例えば、私の友人は大のお酒好きである。
島に来て、「何しに来たか?」と訊かれたとき、はっきり「酒を飲みに来た。」と言い切った。
そーかそーか、と島の人は大納得。
それから友人はありとあらゆる冠婚葬祭に連れていかれる。
宮古のそういう集まりの、お酒の消費量と言ったらない。
たぶん日本一だと思う。
ここでちょっと説明すると、宮古には独特のお酒の飲み方があるのね。
『オトーリ』って言うんだけど。。。
この習慣によって、宮古人は同じ沖縄県の中ですら恐れられ、ひと昔前は、宮古イコール大酒飲み、という図式が完璧に出来上がっていた。(今もか‥)
オトーリというのは、つまりはこういう飲み方です。
円座になって座る。泡盛の一升瓶とグラスをひとつ用意する。
親(本日の主役、もしくはまとめ役)が片手に一升瓶、もう片手になみなみと注いだグラスを持ち、
口上を述べる。(ちょっとした挨拶であり、自己紹介を兼ねる)
そしてスピーチが終わるといきなりグラスをぐびぐびっと飲み干す。
そしてまた注ぎ直し、隣の人に飲ませる。
グラスは空になる。これを一周する。
そして最後に親がまた飲んで締め、今度はとなりの人が親となる。
親はとにかく、一升瓶とグラスを持ってぐるぐるまわるのだ。
この方式によって全員と話をすることになる。
みんなに親がまわってくるし、仲良くなるいい方法だ。
しかし問題点は、例えばそこに10人いたら、ひとりあたり11杯のお酒を飲み干すということだ。
そしてさらに驚くべきことに、このオトーリという飲み方はものすごく一般的且つ常識的であり、宮古の生活習慣のようなものである。
年配の男の人では、このオトーリ方式でしかお酒が飲めない、という人が少なくない。
いわゆる日本酒の飲み方のような、ちびちびなめながら、つまみの味を堪能しながら、人としみじみ語りながら飲む、というのは意味がわからないし、あり得ないのだ。
とにかく飲む、豪快に飲む、どんどん飲む、そして人の家でもまったく構わずバタンキュウと寝てしまったりする。
これが宮古の、冠婚葬祭の普通の光景である。
しかも、ここでもうひとつ恐るべき事実が。
冠婚葬祭、って普通はめったにあるものじゃないけれど、ここ宮古では、嵐のように頻繁にあるのだ。
まずは正月、旧正月、成人式、合格祝い、入学祝い、ナーフィー(生まれた子供の命名祝い)、旧盆、法事etc‥(と称したつまりはお祭り、宴会なのだ。)
正月やお盆、法事なんかは各一族で行うからいいとして、入学祝いなどのお祝い事は日にちが重なる。
重なっても親戚知りあい、つきあいのあるところへは全部顔を出すのが流儀。
こないだの時、ひとりで11軒もはしごしたという人がいました。
その度にオトーリがまわっていたら、いったいどうなるか、みなさんのご想像におまかせします。
と、いうわけで、ちょっと長くなりましたが話を元に戻すと‥。
酒を飲みに来た、と答えた友人は、念願叶ってたらふくお酒が飲めました。
そうやって知り合いもどんどん増え、いつのまにか土地に馴染んで、今は立派な宮古人です。
宮古に来たらよく投げ掛けられる、「何しに来たか?」には何かしらちゃんと、わかりやすい答えを自分で見つけておくといいですね。
それが意志疎通の第一歩。
気取る必要はないよ、肩書きも経歴も関係ない。
ただ「何しに来たか」に対する答えだけで、充分楽しくやっていけるのだと思います。
今日の晩ごはん。。
納豆、もずく、トマト1個、ミキ(玄米のどろどろした甘い飲み物)
以上。今日は食欲なーい、たまにはこんなもんでいいか、。